[附巻0086]【凌雲和尚、屋部邑に於て雨を祈りて験有り。】凌雲和尚(諱名は宗憲)、幼稚の時より、志、昆弟と異なり、焼香講法す。戯遊にも此くの如し。是を以て、父兄、喝三長老に給与して、以て徒弟と為す。凌雲、喜悦して益々仏心を興し昼夜懈らず。其の後、倭国に雲遊し、遍く頴悟の師を覓めて嗣法参禅し、釈道周く通ず。世界事物の千変万化、覚知せざるは莫し。而して帰国す。是の年に至り、竜福寺の住僧と為る。然り而して未だ周年ならずして寺を辞して、名護郡屋部邑に、草菴を構結して楽道安身の処と為す。一年球陽大旱し、都鄙の人民甚だ以て愁憂す。凌雲、村人を招き之れを慰めて曰く、愁ふる莫れ、怕るる莫れ、我、汝の為に雨を祈らんと。草菴の後、松嶺の内に、地を払ひ壇を設け、昼夜怠らず念経呪法、已に七日に至る。果然、黒雲四もに起り柿然として雨降る。村落の人民、鼓腹歓喜す。誠に是れ、凌雲、徳を以て天に感ぜしむる者ならんか。又屋部村は常に多く房屋を火焼す。凌雲自ら草奄を結び、亦壇を設け経を念ず。此れより以後、火災を起さず、亦是れ、凌雲、徳を以て炎を消すや已に疑無し。又村人の、志有りて物を進むるも、物未だ進至せずと雖も、預め先づ之れを覚知す(今彼の草菴有り。屋部邑人、正・五・九月、香案を具し、拝礼を致す)。