[附巻0195]【本年、薩州の命に因り、犯人牧志を召して、之れが為に照料せんとし、法司官向有恒宜野湾親方朝保・御鎖側官馬文英金武親雲上良智等を遣発す。】此の年六月初四日、監守官市来次十郎の牌令を奉ずるに、太守の命有るに因り、牧志をして、本夏進みて薩州に到り、三年の間、琉舘に逗留して、西洋船隻到来の時に逢ふ毎に、容貌を改粧し、仏訳して事を弁じ、更に西洋言語を将て土人に指教せしめんとす。凛遵違ふ勿れ等の因。査するに、該牧志は上届申年、法を犯す有るに因り、已に放流の罪を示す。早く宜しく謫地に放置すべし。但、該志は、曾て夷人に告ぐるに、已に死するを以てするに因り、若し其の航海の時、他方に飄到すれば、或いは夷人之れを見て、国家の事弊を滋くする有らん。乃ち獄内に囚す。今若し薩州に到りて伝訳して事を弁ぜば、粧扮改むと雖も、馬脚自ら露れん。且該忠の一款は、殆ど中華に伝布す。誠に恐る、天朝の倭情有るを見て、遂に進頁を杜絶することを。伏して祈る、之れが為に料理して、其の挙を停止せよ等の由、監守官に詳請す。批を奉ずるに、事、奉命施行に係る。之れが為に料理する能はず等の因。凛遵す。七月十九日、該牧志を将て、其の罪を允免す。随ひて監守官に赴く。是れに由りて、其の挙を停止するを呈請する事の為に、特に法司官向有恒宜野湾親方朝保に命じ、亦、御鎖側官馬文英金武親雲上良智をして、其の附役と為らしめ、亦、異国通事係長堂里之子親雲上朝清を将て之れが跟伴と為し、一同前み赴く。八月初三日、薩州に到る(州に到るの後、若し勒ひて牧志をして洋言を教へしむるの令有らば、則ち呈請して該長堂をして、代り弁ぜしめんとして然す)。該法司等の官、未だ呈請を行はざるの先、八月初六日、薩州の憲令を奉ずるに、次十郎の呈称に拠れば、率ゐる所の牧志、覇江開船の日、洋中に落沈す。即ち杉板を卸して以て探取を行ふも、尚、下落を知らず。此れ如何にして以て溺死を致せしや、実に計らざる所なり等の由、宜しく応に告知して可なるべし等の因、此れを奉ず。該法司等の官、九月初八日、無事回国す。