[附巻0211]【本年、国頭郡謝敷村の比嘉筑登之、波多武国に飄到して日本に転送せられ、飛船の直庫内間に限随して以て国に帰る。】国頭郡謝敷村の比嘉筑登之は、曾て銅銭若干を将て、与論島人に借給す。経に人を遣はして催徴すると雖も、尚未だ償還せず。時に該島船隻の到来する有り。因りて其の船に頼りて、赴島催徴せんとす。乃ち財木浦松を順装し、去年に於て、該島の船人三名と同に開洋す。゚んぞ想はん、半洋に駛到し、ユに暴風に遇はんとは。帆檣を吹き折られ、風に任せて流蕩し、飄到すること何処の島なるかを知らず。坐す所の船は礁を衝きて撃砕す。惟是れ船上の人等、相共に浜に登り、纔に以て活命す。時に夷人五六名の彼の処に到来する有りて蕃薯を恤賜す。又手を以て様を為して曰く、此の処は乃ち波多武国に係ると。終に該難人等を率ゐて、前みて官署に到り、細さに来歴を詢ふ。奈んせん言語通ぜざるに因り、只対へて曰く、此れ琉球人なりと。是れに由りて憐を難人に垂れ、厚く撫恤を為す。既にして属内の満陀国に送到す。該国に華人の在る有るに因り、即ち該比嘉等を将て、華人に交授す。随ひて心を加へて養贍するを蒙り、賜ふに、小袖衣各一領・q子各一件・番銀各二員を以てし、以て菓子・烟草等の件に及ぶ。該両国の人、貌、西洋国人に似たり。既にして該難人を将て、夷船に附搭し、正に江戸属内神奈川に解送せんとす。但、該船前みて江戸横浜に到るに因り、即刻率ゐて異人旅館に到り、彼の処の官員に交与す。随ひて撫恤養贍を蒙り、賜ふに、単衣各一領・布帯各一条・雨傘各一柄・菓子各一箱・手巾各一条・百田紙各半帖を以てす。且該難人を将て、薩州官員に転授す。随ひて、衙門に率ひ到り、心を留めて養贍するを蒙る。既にして羽織各一領を賜ひ、復宰領人を附し、久宝丸船に附搭して、麑府に解送す。而して該比嘉をして球館に安插せしむ。是れに由りて、例に照して食を賜ひ、飛船直庫内間に眼随して、以て国に帰す。