[附巻0216]【本年、鳥小堀村の奥里子有りて、具志川王子荷方船の船主に随ひて国に回る。】茲に十三年を経るの卯年、那覇府に小渡なる者有り。該奥里に向ひて曰く、我ハに工銭五貫文を送らん。請ふ、焼酒を那覇に荷到せよと。該里、利の為に迷はされ、那覇に荷到す。該小渡、奥里を率同し、直ちに大島船に到り、自己は岸に登りて先に逃ぐ。瞬息の間、該船帆を掲げて開洋す。該里、船人に向ひて曰く、請ふ、我を将て上岸せしめよと。船人聴かずして曰く、我等、価銭三百貫文を将て、小渡に送給して以て購買を為すと。直ちに大島に到る。翌年二月の間、該里、島人二名と同に小舟に坐駕して、海に出でて魚を漁す。俄に風波猛起し、風に随ひて漂流し、何処の洋面なるかを知らず。幸に捕鯨船隻有りて、救助上船せしめ、亜米利加国の属奴与遠加地方に率到す。即ち該大島人二名を見るに、船楫を操る能はず。遂に岸上に卸す。該里は善く操るに因りて、仍本船に駕して諸浦を往還す。彼の地は元冥威を振ひ、天気厳寒なり。三四个月の間、白雪大いに降る。該里の両脚、寒の為に痛められ、営業する能はず。遂に陸地に卸す。即ち自ら医を諸ひ調治するも、尚痊を得ず。空しく光陰を送る。時に日本御勘定吟味役、小野友五郎殿有り。赴きて該国に抵り公務を弁理す。其の公竣り、回国の便に随ひて、神奈川に送到し、該川御留守居附役脇田市郎殿に交授し、九月二十一日に、薩州に転送す。即ち具志川王子の荷方船の船主に随ひて回国す(大島人二名は、今に去向を知らず)。