[附巻0268]【本年、外国蒸気船一隻の泊港に来到する有り。】此の年、外国蒸気船一隻の泊港に来到する有り。随ひて即ち、法司宮・度支官及び吟味役・御鎖官各一員、前みて泊村に赴き、駐箚して事を督す。因りて通事係を遣はし、其の来歴を問ふに、即ち云ふ、此れ仏蘭西国船隻に係り、人数共に二百人、内に官員十一名有り。台湾開船し、将に長崎に赴かんとし、用水を乞求する事の為に、貴国に湾泊す等語と。随ひて御鎖官を遣はし、其の情由を将て、出張所官員に報明す。更に旧例に依照して、物件を送給して、以て下程と為すの処を将て、河原田盛美殿に報告するに、即ち云ふ、球国は、例に照して送給すべからず。宜しく該仏人等の物件を乞求するの時を俟ちて、方に送給を行ひて可なるべし。且外国人等を接待するの一款は、已に規則有り。其の私船往還曁び用水を乞求する等の事に至りては、宜しく応に本官等に報明して、以て措行を為して可なるべし。其の親書に至りては、将に写給せんとす等由と。随ひて該殿に向ひて又云ふ、古より以来、外国船隻国に到るの時、例として物件を給して以て下程と為す。且内務省管理を為すの後、上届酉年、仏船来到の時は、官と相議し、物件を送給して以て下程と為すと。今船例として応に送給すべきの処、頻りに商議を行ふも、乃ち聴従するを得ず。此の時に当り再び商議を行はしめずして帰る。其の後福崎季連殿・河原田盛美殿・青木孝亮殿・時任義当殿等泊村の公館に来到す。随ひて物件を仏人に給せんとするの処を将て再び商議を行ふ。乃ち云ふ、琉球、曾て外国と定むる所の約条は、政府、東京に在りて、已に改定を行ふ。琉球、夷人を接待するの一款は、前の如く施行すべからず。若し直ちに物件を送らば、但に琉球、敬を政府に失ふのみならず、球に留まる官員等も亦責を政府に得ん。宜しく其の挙を停止して可なるべし等由と。且青木殿・時任殿等、琉球通事係を率ゐて、同に仏船に登り、通事係をして、名札を逓投せしめ、遠く海国を航するの労を申告し、更に上岸するの時、前みて出張所に到るの処を将て、仍ねて申告を為すに、即ち云ふ、前みて到らんと。其の後、船長曁び官員各一員・水梢二名、一共に上岸す。随ひて即ち、通事係、命令を奉じ、仏人等を伴ひ、前みて出張所に到るに因り、随ひて茶桔を発給して以て款待を致すの外、更に、物件欠くる有れば逐一開報するの処を将て、直ちに告暁を行ふ。随ひて即ち、仏人、用水・活牛三口・活豚四口・活鶏十二隻を発給するを禀請す。随ひて活牛一口を減じ、其の余は数に照して送給す。且福崎殿・河原田殿、仏人の朝官を邀請するに因り、船上に登到し、其の款待を受けて帰る。今黷オ該殿の暁す所の如く、物件を送らざれば、則ち接待の礼、旧例に異なり、深く仏人等の不平の心を開くを恐る。因りて又御鎖官を遣はし、確に商議を行ふに、乃ち云ふ、外国を接待するの一款は、前に暁す所の如し。琉球、曾て外国と定むる所の約条は、政府已に改定を行ふ。且皇国に于ても亦外国船隻漂来の時は、並びに物件を送給するの挙無し。乃ち琉球、直ちに物件を送りて、該仏人等、外務省に報告すれば、則ち但に琉球、敬を政府に失ふのみならず、球に留る官員等も亦政府の責を得ん。宜しく其の挙を停止すべし等由と。乃ち已むを得ずして、其の挙を停止す。該仏船開駕して回去す。