[附巻0274]【本年、独乙国軍艦一隻の泊村洋面に来到する有り。】此の年、独乙国軍艦一隻、泊村洋面に来到す。此れ則ち該国商船、曾て宮古島に在りて、礁を衝きて破船し、其の救助を受くるに因り、故に島に赴きて物を贈り、碑を建てて以て其の恩を謝せんと欲するものなり。茲に、九等出仕山村一蔵殿を遣はして、其の事を弁理せしむ。宜しく応に球吏の内より倭語に識熟する者一名を択選し、一同前み赴きて諸務を妥弁すべし等の因、内務卿移咨し、司に到る。理として合に移知すべし等の由、在番親方此れを准ず。更に内務省御出張所の咨開も亦之れ有り。且該艦人等の意は前みて王城に赴き、国王に接瞻して、難民を救助するの恩を叩謝せんとす等の由、内務省御出張所も亦移咨し、此れを准ず。随ひて国王、病に染みて対接するを得ず、尚氏伊江王子朝直、王に代りて対接するの処を将て、内務省御出張所に請候す。該所其の縁由を将て、山村殿に報じ、該艦長官に転報す。随ひて即ち該長官並びに員役四人、河原田盛美殿・山村殿を率同して、王城西殿に謁到し、難民を救助するの恩を叩謝して、金銀時計壱個・望遠鏡一個を将て、国王に奉献す。該王子に進むること亦然り。随ひて交領を行ふ。時に、種子島時恕殿・青木孝亮殿両人有り。艦人未だ到らざるの先に于て、前みて王城に赴く。是れに由りて、該王子・法司官、該両人及び河原田殿を率同し、茶菓点心酒肴等の項を設置し、該艦人等を款待す(水手等に至るも、筵を別に設けて、茶菓等の項を進む)。且該艦長等、王子、法司宮を将て、艦上に招邀する有り。随ひて、種子島殿・河原田殿・青木殿等を率同し、一同登艦す。該長、酒菓等の項を設けて、以て款待を致す。時に、山村殿を将て、充てて通事と為し、以て清談を為す。且該艦湾泊の日、豚・羊・鶏・鶏蛋・蕃薯・蔬菜等の項を増給して、以て粮食の用と為す。随ひて即ち其の項を収領して、以て謝礼を報ず。且該艦島に赴くの時、山村殿・本国通事・水手等該艦に坐駕して、一同前み赴く。且島に到るの後に及び、該艦長、即ち在番曁び該島員役等を邀ふ。随ひて該官等、物件を携帯して増給を為さんとし、艦上に登臨す。該艦、茶菓・酒等の項を設置し、厚く款待を行ひ、難民を救助するの恩を叩謝す。因りて云ふ。我国の皇帝特に我等を遣はし、碑文を建立し、島の誼を記載して永く不朽に垂らしむ。貴島員役相共に力を合せ、地方を択察することを懇乞す等由と。随ひて於屋久志の道傍を選び、力を合せ碑を建つ。既にして該艦長曁び官員二名、兵隊をして剣を撫し、炮を持し、大鼓笙子等の楽を吹奏せしめ、一同前みて碑場に赴く(此の時、島役人等、碑文の前面に序立して互に礼遇を行ふ)。望遠鏡箱両個・時計箱一個・証書両道を将て、碑文の台上に連飾し、其の縁由を将て、諸人に説諭す。其の証書を将て在番に交接し、永く島中に護せしむ。金時計一個・遠望鏡一個を将て、該番に交給し、望遠鏡一個・金時計一個・銀時計四個を将て、島役六人に交給す。既にして旧に仍りて行列し、暇を告げて艦に回る。且駛せて厦門に進まんと欲するも、貴島の洋路を知る無し。乞ふ、人を撥して引導するを賜へ等の出前み来る。是れに由りて、海に老ゆる人民を遣撥し、之れが引導を為す。随ひて即ち開洋し、駛せ進みて池間村を離るること約半里余、此れより憂慮有る無し、艦を下りて回り来る。