[本文0009]【利勇、君を弑して位を簒ふ。】南宋の淳煕年間、天孫氏二十五紀の裔孫、徳微にして政衰ヘ、武威振はざれば、則ち四方の按司各其の土に拠り、城を築き兵を聚めて以て権威を争ふ。時に一権臣利勇なる者有り。深く君恩を受け、弱年にして近侍官に任じ、壮年にして専ら国政を掌る。己に従ふ者は之れを賞し、己に逆ふ者は之れを罪す。権威尤も盛にして、国人之れを畏るること虎の如し。一日、内殿に入り隙に乗じて君を殺し、自ら立ちて国君と称す。是れに由りて四方騒動し、兵乱大いに興り、盗賊蜂起す。按司・酋長各兵権に拠り、雄を争ひて息まず。挙国の生民塗炭既に極まる。