［本文0089］【十八年、蔡譲、亀に命を救はる。】唐栄の蔡譲、字は盛亭、慶賀通事と為りて中華に赴く。船、中洋に到りて颱風の為に壊され、人多く溺死す。譲、国簡を抱き、海面に浮在するも、万に一生無し。時に一大亀有り、忽ち来りて譲を負ふ。又双有りて左右より之れを扶く。譲、国簡を抱着して以て亀背に坐し、他の走去に任す。二昼夜を経て一所に走せ到る。譲、就ち登岸するに、乃ち南京の地なり。譲、亀に揖して言ひて曰く、汝既に我を救う。恩深く報じ難し。若し我命を全うして帰国すれば則ち我が子孫をして永く誓ひて世々汝が肉を食はざらしめんと。亀尾を揺して去る。譲、手に国簡を捧げ、官長に禀報し、礼部に転達す。礼部、讓の表を奉じて慶賀するの時、颱風に舟を覆へされ、併びに亀、讓を救ふ等の由を将て、詳細に具題して以て奏す。此れよりの後蔡氏の家敢へて亀を食はず（附正統初年、譲、偶々那覇に過り、市中、人の将に大亀を宰らんとすること有るを見、之れを視るに忍びず贖ひて海に放つ。蓋し此れ其の報ならんか）。