［本文0100］【附那覇の威部竃。】遺老伝に説く、那覇長虹堤の南に威部竃有り。昔、瀬長按司なる者有り、乃ち王の馬なり。其の夫人、傾国の色、絶世の姿有り。大城按司窃に之れを窺ひ見て、心甚だ之れを慕ふ。一日、瀬長城に謁し、乃ち按司に請ひて、同に海辺に往き、席を設けて酒を飲む。或いは釣し或いは網して以て戯遊を為す。夜に入りて大いに酔ふ。大城按司他の酔へる時に乗じ、瀬長府に奔り去き、其の夫人を侵す。已に数次に及び、此の事稍露はれ、世人の譏を惹く。王遂に之れを聞き、奮然として怒を発し、忽ち精兵を発して道傍に伏せ、而して使を差はして他を召す。大城按司其の故を知らず。馬を驟せて進み来る。已に長虹堤に至り、伏兵の為に殺され、従人皆潰散す。軍士其の屍骨を将て堤南に葬ると。又一説に、尚金福王、国公懐機に命じ、長堤を築建して以て往来に便せしむ。懐機、海底已に深く力の施すべき無きを以て、恭しく祭品を備ヘ、天に祈り神に告ぐること一七日間、海水乾涸す。即ち国内人民婦女をして石塊を運び来らしむ。此の時、阿波根祝女有り、ち一症に染みて斃れ去る。人民深く其の斃を憫み、堤畔の地に葬埋するに、後世に至り、屡々、霊効を見す。竟に四囲に石垣を築きて以て神嶽と為し、之れを名づけて威部竃と曰ふと爾云ふ。按ずるに、此の二説、世を歴ること已に久しく、未だ敦れか是なるやを知らず。