[本文0107]【夏居数、旨を奉じて阿摩和利を攻め滅す。】首里州に一忠臣有り。姓は夏、諱は、居数、名乗は賢雄、俗に大城と名づく。其の人と為りや、忠義剛直にして武勇無比、骨格人と異なり、勢狼虎の如し。是れに由りて当時の人、鬼大城と叫ぶ。此の時、王女踏揚按司、勝連按司阿摩和利に嫁す。大城、其の僕臣と為りて勝連に赴く。勝連按司は、身、儀賓に居るも、而も放辟邪侈、驕傲已に極まり、恒に弑簒の志有り。時に中城按司護佐丸、已に要途に当り、恒に兵馬を整へて以て拒禦に供へ、厳然として居る。天順戊寅年、阿摩和利、護佐丸を王に讒愬して親族滅亡す。阿摩和利幸に其の志を得、歓喜窮り無し。密かに臣士を召して相議し、大いに軍馬を整へ、中山を攻むるを謀る。時に居数、其の機事を知り、密かに夫人に告ぐ。夫人大いに驚きて曰く、災禍遠からず、我が為に之れを計れと。居数夜静まるの時を俟ち、夫人を背負ひ、其の難を逃去して首里に赴く。阿摩和利、夫人の逃去を知り、急ぎ軍兵に令して将にリひて之れを殺さんとす。居数、チ真を過ぐるの時、兵卒炬火してリ逐甚だ急なるを見るも、計の施すべき無く、天を仰ぎ地に伏し、大いに神歌(俗に御唄と云ふ)を唱ふ。即ち暴雨大いに降り、兵火悉く滅す。居数喜びて夫人を負ひ、りて王城に到る。天未だ暁曙ならず、門に扣へ、て禀報す。王怒りて曰く、婦女と男と夜に乗じて来る。豈貞節なる者ならんやと。夫人泣哭して将に押明森の樹木に縊らんとす。王、色を改め急ぎ門を開きて入れしむ。夫人其の事を詳報す。居数亦神歌を唱ふ。王頗る之れを信ずるも猶予して未だ決せず。首里殿内より神歌を献奏す。王、大いに其の女の節義を失はざるを喜び、且阿摩和利の叛逆を知り、即ち急ぎ令を伝へて四境の軍士を招聚す。未だ幾時ならずして阿摩和利、機事の密ならず、大城逃去し、若し先に手を動かさざれば災禍免れ難きを以て、親ら軍兵を率ゐてリひ来り、火を放ちて城を攻むること甚だ密、殺戦極めて急なり。幸に四境の軍士皆来りて相救助す。寡、衆に勝たず、阿摩和利大敗して走る。王、夏居数に命じて大将と為し、勝連を征討せしむ。居教旨を奉じ、弟居忠居・勇及び官士・兵卒を率ゐて勝連に前み赴く。其の城、西北は嶮岨、南は海濱に臨み、東角は平易なり。而して阿摩和利は武勇の人なり。或いは城を出でて殺戦し、或いは門を閉じて拒禦す。居数大いに怒り、二弟をして軍を率ゐて南門を攻めしむ。両軍混戦して矢石雨の如し。居数又軍を分ちて攻撃し、鋭気甚だ熾なり。阿摩和利智力既に窮まり、城を守りて死を俟つ。居数仮りに婦人の容貌を粧ひて東墻を踰ゆ。阿摩和利驍ノ倚りて立つ。居数飛び走せて首を斬り、大いに叫びて曰く、我、城主阿摩和利を斬ると。諸軍僉以て之れを聞き、投誠降服す。此の時二弟、軍中に戦死す。居数、凱旋し命を復す。此の日、諸神の太平を賀する有り。即ち王、大いに之れを喜悦し、遂に其の功を褒嘉して特に紫冠位を授く。且阿摩和利の錦緞衣裳並びに勝連城門楼を将て悉く居数に賜ふ。其の日、諸神皆神歌を唱へて来り、太平を賀す。次後居数は越来間切総地頭職を拝授し、名づけて越来親方と称す。