[本文0110]【附万寿寺を創建す。】旧記に云う、景泰年間、嘗て一僧有り、名づけて鶴翁と曰ふ。壮年のとき日本国へ赴き、参禅学道す。一日、熊野神に向ひて曰く、貧衲、学道成就すれば、当に熊野に詣りて以て香を焚き拝礼を為すべしと爾云ふ。嗣後、参禅修行し、功夫れ已に成りて帰国す。即ち鶴翁をして天界寺に住持せしむ。此の時、鶴翁、屡次熊野寺に拝謁せんことを奏請するも、王、其の請を准さず。鶴翁、熊野を瞻仰するの思、昼夜息まざる有り。一夜、夢に人有り、来りて告げて曰く、我は熊野権現なり。今、汝が志を遂げしめんと欲す。明日必ず北山に往き高く一声を呼べ。果して応声有れば則ち此れ神の験なりと。遂に清風に化して去る。鶴翁驚きて醒むるに、但、異香芬馥し瑞気纏繞する有り。鶴翁大いに喜び、明くる旦、北峰に到りて大声を揚ぐ。果然前山に声有り。鶴翁即ち其の響く所の地を視るに、崎嶇たるル岩にして人跡の能く到る所に非ず。暫時歩を留めて蜘アす。即ち一鬼面有りて像を顕して出現す。鶴翁叩首九拝す。既にして之れを王庭に題奏す。時に王も亦霊夢有りて符合を相為すこと少しも差有らず。即ち輔臣に命じ宮社を此の地に創建せしむ。時に鶴翁此の地を徘徊し、偶々古鏡を獲たり。霊光常ならず。便ち之れを宮内に蔵して以て崇信を為す。後亦寺院を創造し、之れを名づけて大慶山万寿寺と曰ひ、以て宮社を看守するの所と為す。