[本文0115]【六年、王、親しく自ら軍を率ゐ、奇界を征討す。】奇界島、畔きて朝せず。連年兵を発し、屡々征するも功無し。王怒りて曰く、啻に功無きのみに非ず、反って侮辱せらる。吾、宜しく親しく軍兵を領し、以て賊乱を平ぐべしと。遂に二千余の兵を率ゐ、路、安里村を歴るのとき、一鳥有りて飛鳴して過ぐるを見る。王、弓を把り、天を仰ぎ祈りて曰く、若し我、奇界を平ぐるを得れば、一矢にて鳥を射て落さん。若し平ぐること得されば、又射ること得ざらんと。祈り畢り、絃響き矢発す。早已に鳥、地に落つ。王、心大いに喜ぶ。海船五十余艘に分駕し、二月甘五日、那覇開船す。行きて洋中に至るのとき、又一巨鐘の波面に在りて浮沈するを見る。遂に船に載せ、以て八幡大菩薩の賜と為す。二十八日、奇界に至る。賊兵、港口に柵を立て塁を築き、矢石雨の如く、決して進むべからず。王、大いに怒り、軍兵をして進攻せしむるも死者無数なり。王、愈々怒りて息まず。老臣一人班を出でて、奏して曰く、賊兵、勇ありて智無し。之れを破ること何ぞ難からんや。請ふ、数日を延せば臣必ず賊を破るの計有らんと。王、其の言に従ひて俟つ。三月初五日に至り、煙雨霏々たり。夜に当り天黒く対面弁じ難し。老臣、数百の軍人をして各小舟に駕し、多く火把を帯び、佯りて軍を分つの状を為し、彼の島の背後に駕し赴かしむ。賊兵之れを見て果して其の計に中り、止老兵をして港口を守らしめ、皆背後に往きて敵を迎ふ。王大いに悦び、急ぎ諸軍に令して一斉に上岸せしめ、火を放ち屋を焼き喊声天に振ふ。賊兵大いに驚き、魂、体に附かず、降る者無数なり。賊首謀尽き力窮りてエにせられ、誅を受く。王、別に酋長を立てて百姓を治めしめ、本月十三日開船して帰る。是れに由りて王、輔臣に命じ、鳥を射るの処に宮を建て鐘を蔵せしめ、八幡宮と名づけ、並びに寺を構へて神徳と名づく。又巨鐘を鋳て神徳寺に懸く(鐘は今尚存す)。嗣いで王、驕傲愈々盛にして残害益々甚しく、諫者は之れを罪し、[者は之れを悦びて、国政日に壊る。臣士遁隠する者計ふるに勝ふべからず。