[本文0136]【国頭郡の金丸王の旧宅。】俗説に、一日、金丸王日暮れて田より帰るの時、忽ち一位の老人の形容怪異、白髪雪の如きもの有りて、金丸王の前に進み至りて曰く、今、農民の主君を謀殺せんと欲する者甚だ多し。久しくは此の地に留まるべからず。須く早く其の難を逃れて以て国頭に至るべしと。金丸王曰く、吾、家宅に到り、早くs糧を備へ、以て避去に便せんと。老人曰く、若し時刻に蜥xすれば、其の害逃去すべからずと。急ぎ金丸に請ひて海浜に到らしめ、即ち小舟に駕し、茅包赤飯三且米数斗を装載して以て奉送を為し、忽ち清風に化して其の之く所を見ず。金丸王大いに怪しむ。遂に国頭郡宜名真の地に至り、草庵を結びて栖居す(宅は卯辰に坐し酉戌に向ふ。長さ十丈五尺・闊さ六丈。村を離るること半里許に、今一菴を結ぶ、長さ一丈六尺・闊さ一丈二尺五寸。壊るれば則ち修葺して、未だ敢へて少しも廃れず)。金丸王、此に移居するも、亦事として心に称はざる者無し。故に居民亦深く之れを憎み、他を殺害せんと欲す。此の時、馬思良(俗に泊大比屋と呼ぶ)、深く其の事を知り、密かに金丸王に告ぐ。是れに由りて金丸王急ぎ首里に往き、以て其の危を避くと爾云ふ。