［本文0211］【首里の湛氏、三たび神歌を唱へてに波濤を静む。】首里湛氏（数明親雲上）は、原来、美里郡伊覇村の人なり。幼稚の時より深く神歌を嗜み、朝夕詠謡して敢へて懈怠せず。壮年に及ぶころ、詠謡妙を得たり。嘉靖年間、聖主、久高島に行幸す。湛氏、神酒司頭と為り、神酒を捧献して久高島に到る。時に聖主、鷁船に下来し、将に返樟せんとして帆を掛く。湛氏、鷁船に乗り、神酒を奉献す。中洋に回到するや、黒雲四に起り、風雨頻りに至り、東西分たず、狂浪澎湃として進退共に難し。是に於て、湛氏、鷁船の頭に立ちて、神歌の曲を謡ふ。再三歌謡して、風波漸く静かに、天面四開して、鷁船恙無く与那原に到る。聖主より深く褒美を蒙り、家来赤頭職に擢んでられて、神歌頭と為り、黄冠を頂戴す。後、大島地方数明地頭職を賜はる。