[本文0310]【七年、佐敷間切上屋比久、烏声を聞きて姪の禍を預知す。】佐敷間切に上屋比久親雲上なる者有り。能く烏声を聞きて、預め吉凶を知る。其の弟は、名を平田大親と曰ふ。一男一女を生む。女は名伝はらす。男の名は平田佐東と叫ぶ。勇力人に過ぐ。母の死後、父、妓女を納れて継室と為す。兄妹諫めて曰く、厳父は今、間切の長に居る。是れ人の共に型とする所なり。豈、妖妓を嬖して以て淫俗を啓くべけんや。請ふ、必ず之れを出せと。佐東、諫めて已まず。大親大いに怒り、妓も亦讒を進め、相共に殺さんことを謀る。時に越来徒屋なる者有り。勇名大いに聞ゆ。托され来りて天井に埋伏し、以て機会を候ひて之れを謀らんとす。佐東知らずして出で、適々伯父上屋比久の家に到る。忽ち烏の庭樹に啼く在り。伯父之れを聞き、駭然として、佐東に謂ひて曰く、吾が姪、今夜、必ず戦死の禍有らん。当に此に宿して焉を避くべしと。佐東曰く、吾が勇、人の共に知る所、誰か敢へて我を殺さんと。遂に辞して家に回る。時に正に三更、枕に就きて寝む。徒屋、其の睡熟に乗じ、鎗を用ひ、天井より槊、心窩に中る。佐東、痛に随ひて醒め、猶未だ即死せず。怒りて仇を報いんとして天井に登るや、早く徒屋に刺されて死す。佐東の妹、以て告ぐ。即ち公朝、大親を罪して公奴と為し、徒屋は自ら縊れて死す。此れ其の一の証なり。