[本文0550]【二十一年、塩屋村の鉄匠の舎に、倏ち黒衣在り、暫時にして滅す。】大宜味郡塩屋村に、秋八月間、船隻を修造するの時、小舎を設けて以て鉄釘を造る。一日清晨、忽ち珍異の衣、其の舍中に放在する有り。而して其の衣の絹なると布なるとを知る能はず。人皆聚集して大いに之れを奇怪とす。振り挙げて之れを看るに、黄紅の色を現出し、亦地に放在するに、変じて潔白の色有り。而して煌々たる彩光大いに常衣と異なる。人想へらく、神衣の誤りて此の舎に在らんと。高く其の衣を捧げ、根所に来到して、盆上に紙を鋪き、紙面に衣を置き、香を焚きて拝礼するに、即ち消滅を致す。今、塩屋邑に屋宜なるもの在りて、親しく其の衣を看たり。且時に此に在りて現に看し所の人の子孫姉妹、皆其の事を伝へ聴くに稍しも相異ならず。