[本文0568]【二十三年、始めて、聞得大君加那志、三年に一次親しく烏帽子井に到ることに定む。】往昔の世、西原郡小波津村に小波津なる者有り。常に田畝を耕して業と為す。其の田畝の旁に一清泉有り。小波津、此の地に至るの時、茆烏帽子を此の井上に放在して以て耕伝を為す。之れを名づけて烏帽子井と曰ふ。小波津、一日、烏帽子井辺に往き、一神女の天より降り来たり、泉に臨みて沐浴するを見る。此の女、容貌美麗にして瓊色世を傾く。而して衣服も常と異なる。小波津大いに之れを奇怪とし、密々暗歩し、側より之れを盗み、稲束内に蔵在す。天女、衣盗まるるに因り、上天する能はず。跡を人間に留め、遂に小波津と結びて夫婦と為る。已に数年を歴て一女一男を生み下す。此の女子、年已に七八歳に及び、弟を携へて遊び、且歌ひて曰く、母の飛衣は稲束の下に在り。若し汝啼哭せざれば、吾其の飛衣を将て汝に給与せんと。母聞きて大いに喜び、即ち稲束を|開して之れを視るに、果して飛衣有り。即ち身に此の飛衣を穿ち、両腋に二子を挟み、清風に乗じて飛び去る。是れに由りて聞得大君加那志、毎年二三月間、必ず此の井に造りて以て崇信を為す。此の年始めて三年に一次、親しく此の井に到りて以て祭祀を為すことに定む。佳節祭祀に逢ふ毎に、則ち我謝祝女そして五穀の為にイを致さしむ。後、癸卯に至りて尽く其の礼を裁つ。翌年の春、改めて火鉢阿母志良礼を遣はし(此の時、跟従は阿母加麻二口、導引は庫理役一名、護送は外城役一名なり)、其の水を取り来りて以て献上を為し、永く著して例と為す。