[本文0634]【三十四年、葉壁山仲田邑の親田、Qに逢ひて命を救はる。】伊平屋仲田村に、樽親田なる者有り。他の父は和順敦厚にして、一心謹慎なり。恒に慈愛を行ひ、恩は禽獣に沢す。嘗てQ魚の肉を吃はざるなり。一日、子に教へて曰く、Q魚は海中の大物なり。況んや海島の人、海洋に往還すること、日已に数多なるをや。汝等心を操ること正直にして、恒に陰徳を行ひ、宜しくQを漁し以て吃ふべからざるなりと。親田、愈々善行を為し、平常慎密にして、敢へて父の命に違はず。康煕壬午、八重山の船、貢米を解らんとして葉壁山に到る。秋八月二十八日、ユに暴風に遭ひ、船隻殆ど危し。本山の民人皆船に登りて幇救するも、晩風已に甚だしく、其の船、繩索をツ断し、礁を衝きて損破し、水梢皆溺死を致す。惟、親田、風に逐ひ波に任せて外洋に飃流す。岸辺を相去ること五拾余度なり。忽ち一大Q魚有りて、波を凌ぎて浮来す。親田大いに之れを驚き訝しみ、心胆倶に裂く。Q魚即ち親田を背にし、送りて国頭場間に至り、他の一命を救ふ。而して今Q以て父子に報ずるなり。