[本文0713]【耳目官夏執中・正議大夫蔡温、貢を進め並びに襲封王爵を請乞す。】耳目官夏執中・正議大夫兼国師蔡温、命を奉じて貢を進め、兼ねて封を請ふ。時に那覇出船して馬歯山に到る。数日を閲して彼の地開洋し、走りて洋中に到るや、暴風大いに起り、十に九危有り。幸に天庇を荷ひて、久米山に飃回して、船隻及び帆檣等の物を修葺す。翌年の春、メに入り京に赴く。時に皇太后の薨ずるに遇ひ、皇上及び百官、事を理むるに暇靡く、公務延遅す。温等、心意忙慌なるも、力の施すべき無し。此の時、監督官専ら進貢を管して、封王を管せずして、請封の事は十に九敗有らんとす。一日、礼部、球官を招来す。温等前みて礼部衙門に至る。大人、後堂に列座して、即ち球官を召し、庁内に入る。但、尚書親しく自ら字を写し、以て問ふを見るに、云ふ、国王尚貞薨ず。応に早く封を請ふべきに、何の縁由有りてか、延して今に至るやと。温、自ら字を写して答へて曰く、貞王薨じ、使を遣はして喪を報ず。喪服已に除くに至り、奈んせん、王世孫尚益、世を辞し、前年に至りて、喪服已に終る。此の故に今以て封を請ふと。尚書又写して云ふ、王世孫尚益、世を辞して、数年を歴閲するに、何ぞ請封せざると。温、又写して云ふ、本国請封の例、必ず貢期に当り、兼ねて能く封を請ふこと案に在り。故に進貢の期を俟ちて、例に照して封を請ふと。尚書各位、覧畢りて起身し、温等退出して館に回る。幸に旨を奉じ、其の請ふ所を允す。既にして公務全く竣り、京を出でてメに回り、而して帰国復命す。