[本文0846]【具志頭間切新城村の志保新城、鬼の眩する所となり往く所を知らず、後二十余日、之れを古墓に得たるも死せず。】前一年十月、志保、鬼の眩する所となり、去向を知らず。大いに驚き、尋ねて知留真志の地に至り、其の墓内に在るを見る。扶け起して其の故を問ふに、志保方めて醒めて曰く、吾自ら此に到るを覚えずと。今年正月に至り、又夜出でて回らず。尋ねて山林江海を経るに並に踪影無し。後二十余日、本村の人、名を新垣といふ者有り。牛を米道山に繋ぎて之れをふ。新垣草を割りて回らんと欲す。牛其の草をふ。新垣大いに牛を叱す。忽ち人の低々として救を叫ぶの数声を聞く。其の声、力無し。新垣甚だ怪しみ、四もに尋ぬれども見ず。速かに回り、以て其の親戚に告げ、但に其の山に至り遍く探す。只岩腰に古墓を懸開し、墓内又小洞有りて洞口、人指を露出するを見る。救出して之れを視るに、果して志保なり。粥を以て少しく之れを食せしめ、方めて言を能くす。其の来歴を問ふに、志保曰く、一向に昏迷し、只両三人有りて、日々赤飯を送るを覚ゆるのみ。幸に人の牛を叱するを聞き、吾即ち救を叫ぶ。今夢醒むるが如しと。未だ幾くならずして又狂症を発し、七月に至りて死す。