[本文0975]【神里邑の女真加戸、病死して復甦る。】南風原郡神里邑の赤嶺の家に一婢女有り。名を真加戸と叫ぶ。年已に四十二歳なり。八月二十日、偶々疝症に染み、寒熱往来し、已に数日を歴、飲食を絶去し、只粉湯を用ふ。一日、身熱し口渇き、冷水を飲まんとし、少しく蕃薯の神酒を飲み、翌日より起して、変じて痢病と為る。九月初九日、病勢重きを加へ、気亦衰微し、言語する能はず。十一日寅の時身故す。卯の時に至り、其の尸を沐浴し、以て其の葬埋の事を理む。未の時に至り、息気あるに似たり。人之れを驚き疑ひ、纔に米湯を用ひて以て試看を為す。而して未だ呑去すること能はず。即ち其の喉を摸すに歴ること一刻に至り、恍として呑下するが如し。是れより親族隣家相聚り相喜び、屡々米湯を用ひて以て其の喉を摸し、漸く呑去することを得て、息気も亦蘇り、申時の半に以て甦生を致す。其の症愈ゆるに当り、髪毛も亦禿げ、十一月の初に方めて全愈するを得たり。