[本文1042]【阿嘉村の大嶺、賦性至孝にして、以て褒奨を蒙る。】慶良間島阿嘉村に一孝行者有り。名づけて大嶺と曰ふ。賦性敦厚にして、誠実純孝なり。家已に貧窶にして、燃眉用を欠き、或いは山林に入りて薪を伐り、或いは海浜に往きて魚を釣り、或いは各処に往きて以て交易を為し、或いは楷船の水梢と為りて、外島に往来して、以て家業と為す。幼稚の時より、晨省昏定して、敢へて怠慢せず。外に出づるには必ず告げ、家に回れば即ち画す。冬天の凍冷には、必ず山林に至り柴薪を}り来りて、以て父母の身体を煖め、日用の飲食は、必ず其の嗜む所の物を問ひて、親しく之れを視、必ず之れを嘗めて、父母に供養す。父母年老い血気已に衰ふれば、則ち夫婦輪流して、須臾の間も未だ嘗て其の側を離れず。牙歯已に弱くして、便物を吃ふこと能はざれば、那覇に往く毎に、嫩軟甘美等の物を買得し、若し客嚢渋乏すれば、即ち借銭して沽ひ来り父母に供進す。母親は腰痛して自ら走ること能はず。大嶺夫婦、老母を扶持して門戸を出入す。且、兄山里なる者有り。一男を生下して早く已に世を棄つ。他の嫂、躬ら勤労を執る。大嶺請ひて家に移し、之れを養ふこと母の如く、之れを教ふること猶子の如し。の成人するに至るや、即ち妻を娶り財を与へ、戸籍を設分し、山里夫婦をして、他の老母を奉養せしむ。又一姉有り。早く其の夫を亡ひて寡居す。孀婦気已に鬱結して、遂に疾病に罹る。大嶺夫婦心を尽し力を竭くして、善く之れを供養し、或いは土薬を用ひ、或いは良医を請ひて服薬療治す。頭甚だ痛きに至りては、手足を擦り、頭髪を摸して、以て調理を致す。而して未だ効験を見ず、以て天年を終ふ。大嶺素より貧困已に極まり、父母に孝順なること此くの如し。竟に天祐を蒙り、家業巨富にして子孫繁衍す。恭しく褒嘉を蒙り、直ちに黄冠に陞り、大いに栄華を誇る。