[本文1087]【天女、与那原御井に現降す。】大里郡与那原の西に一井泉有りて、寒水を湧出す。溶々たる甘醴、清澄底に徹し、一点の濁有ること無し。古より、王后より以て士民に至るまで、恒に崇信を為す。而して霊感響くが如く、イりて応ぜざる無し。之れを名づけて御井と曰ふ。夏五月朔旦、其の邑の幼童、名は如古と称し、年甫めて十歳のとき、外従妹二人、一は武樽と曰ひ、年纔めて八歳、一は真牛と曰ひ、年已に六歳と、相携へて共に其の井地の南に遊ぶ。黒雲天を蔽ひ、天色朦朧として、ラち二円光有りて天より降り来る。形は月団に似て、色は火紅の如し。彼の二妹児、慌忙として逃走す。惟だ如古のみ站立して之れを看る。忽ち人姿二位に変ず。其の一位は紅色衣を穿ち、一位は青色衣を着し、容貌異常、泝`焜煌として猶神仙に似たり。如古深く之れを奇怪とし、進みて井辺に至れば、天神其の井中より緩々歩を移し、出でて東地に来り、飛びて戊土樹上に升り、再三衣を振ひ、仍二円光に変じて、遙かに碧空に騰りて逝去す。如古急に其の家に回り、祖父母に告知す。祖父母、愕然として大いに驚き、亦以て之れを怪異として、竟に其の事を以て、憲司に禀明し、転じて王廷に達す。