[本文1106]【泉崎の宮里、母に孝に、又姉妹親戚を恩助す。】那覇泉崎村に一人有り、名は宮里と叫ぶ。位は掟親雲上を拝す。性孝なるも、只家貧にして、父母を厚養すること能はざるを恨み、遂に鉄匠を習ひて本業と為し、兼て耕種に勤む。其の妻協力苦勤するも、未だ困窮を免れず。時に早く父の喪に遭ひ、其の夫婦、以て終身の恨と為す。後力めて、家饒を致すも、自ら倹素に居る。但母の衣食に於ては、力の及ぶ所情を尽さざる無し。而して其の天年を終ふるや、毎年工銭米を得れば、必ず先づ之れを考妣及び同宗外戚神主に薦め、然る後、之れを食す。二姉一妹有り。長姉は子無くして寡し、尤も憐むべき者なり。時に次姉の女、身を売りて奴と為る有り。宮里、之れを贖ひ、以て長姉の力食を助けしむ。又米を出して其の債を償ひ、其の年老ゆるに及べば則ち親しく之れを養ふ。次姉及び妹に至りては、倶に寡して家貧し。其の姉妹の生む所の男女七人を収養す。妹、人の銭を借り、其の逼索を被る。因りて幼女を売る。母子、別れに臨み悲哭す。宮里心誠に忍びず。亦銭を出して之れを救ふ。又妻の再従に宮里なる者有り。幼時、其の父貧にして之れを売る。亦買来りて之れを養ふ。視ること己の子の如く、遂に銭財を出して婚を定め、妻を娶り、門戸を分立するを為す。又丈父の男に賀数なる者有り。焼瓷を習ふ。時に宮里、他の借銭を保し、以て行李に備ふ。帰るに及び、力の償ふべき無く、宮里賠償す。賀数外に在るの時、其の祖母の大祭の期に当る。宮里其の祭費を出す。又岳母老疾し、其の足拘攣し、其の子赤新に鰥し、人の、母の起居を扶くる無し。宮里移し来り、奉養すること数年、毎冬火を供し之れを煖む。一夜其の炉火を失し、屋を焼く。宮里只岳母を抱出して、財物を焼毀す。然れども以て悔恨する無し。又其の女孫を養ひ、其の子賀数を助けて債を償ひ、以て岳母を悦ばす。