[本文1111]【高嶺間切屋古村の松米次、家主に忠に父母に孝なり。】松米次は、乃ち高嶺間切の民氏なり。九歳の時、父多く貢賦を欠き、既に家産を売り、猶未だ、補ふに足らずして、父子各々身を売る。松、年長ずるに及び、能く力を竭して家主に事へ、朝は則ち衆に先んじて出でて耕し、暮は則ち衆に後れて家に回る。且月夜には、其の余力を稼穡に用ひ、屡々母及び妹を助けて、之れをして身を売らざらしめ、遂に父を贖ひ、而して後身を贖ふ。父母に孝養し、妹をして母に侍せしむ。又祖宗伝ふる所の家宅を買回して、以て父母を悦ばし、其の天年を終へしむ。