[本文1133]【三十二年、麻姑山島尻村の人、福礼前里、孝行有りて、位併びに石綿を褒賜す。】福礼前里は乃ち麻姑山島尻村の人にして、賦性篤実なり。幼より孝友の志有りて、言動親を悦ばす。出入有れば、必ず往く所を告げ、奉養する毎に、必ず欲する所を請ふ。或いは珍味を得れば、之れを懐にして進む。乃ち父偏へに幼子を愛し、家産を以て之れに与へんと欲す。竟に其の遺命有りて死す。前里、毫も怨恨すること無く、便ち家産を将て弱弟に譲与し、別に一屋を作りて自ら居む。但弱弟、人の教養する無きを恐れ、母に勧めて他と同居せしむ。然れども往来絶えず、定省意を加ふ。弟長じて妻を娶り、母年方に老ゆ。乃ち己の家に迎へ入れ、心を尽して孝養す。其の妻之れに化して亦孝なり。母年衰老するに及び、夫婦輪番して側に在り、動くこと有れば則ち扶け、或いは外に出づれば則ち遠近を分たず夫婦倶に随ひて之れを扶く。又父母の喪に居りては、哀を尽して厚葬し、父母を祭る毎に、誠を尽してを豊かにす。且姉妹に厚くして其の貧を済ひ、里人に交りて其の睦を致す。島尻村は、陋俗礼無きの郷と謂ふと雖も、亦其の孝友を観て、感化する者甚だ衆し。郷人皆慕ひて、孝人前里と号す。是に于て孝名大いに著はる。地方官以て聞す。則ち筑登之位及び白綿布二端・花夏布二端・糸綿一把を褒賜す。