[本文1436]【渡名喜島の牛上原の孝行を褒賞す。】渡名喜島の牛上原は、幼稚にして母を失ひ、父に養育せらる。素より家貧乏なり。奈んせん父盲と為りて、手足も亦挙動する能はず。愈々窮乏を致す。上原成人に及ぶや、昼夜力を耕漁の業に尽くし、以て苟完を為し、父親の衣食、前に比して優きを加ふ。極暑の時は、父を負ひて、木蔭に乗涼す。親族の吉礼・祭祀の時に当りて、父を招く者有り、父推辞すれば、則ち上原頻りに之れを勧めて、負ひて往く。且一人の力にては、孝養を尽くし難きを念ひ、故に父と商議し、継母を求め得て、自己も亦親を完うし、相共に保養す。父親久しく病症に染むに因り、常に以て虞を為して、島中の諸嶽にイる。更に父に請ひて、同に那覇に往き、医を延いて療治するに、手足漸く挙動す。年七旬を邁ぐ。此れ誠に上原孝感の致す所なり。且伯父有りて年八十に登る。其の受くる所の地方は、他家に当し、銭五百貫文を借り、毎年の貢賦も償ひ難く、甚だ労苦を致す。之れに在りて、上原、伯父借る所の銭文を償ひ、厥の地方を以て其の子に還給す。時に常に米穀・衣裳を供進し、或いは珍食有れば、則ち又送進す。上届亥年、伯父病死するや、資を発して之れに賻り、以て厚葬を為す。更に兼ぬるに、上届辰年の饑饉に餓リ者三十余人有り。上原、製する蘇鉄を将て、毎人に少許を支給す。況んや且上届午・未両年納むる所の棕梠賦税、挙島疲を致すに因り、幸に上原に頼りて、銭二千五百貫文を借り、両年の賦税納清し、償ふの時、息を免ずるを約定するをや。且本島のイ宮、素より小木を以て設造し、大風に逢ふ毎に、之れが為に吹き損ぜられ、修造の煩に勝へず。之れに依りて、上原呈請して、改めて長・深二間の木宮を作る。又本島の人、火の災に逢ひ、衣服・器物悉く焼失を致すもの有り。上原、袷小袖一領並びに麦一斗五升を恵給す。又網罟を設造し、挙身不時の肴需有れば、則ち之れを借給し、自己も亦往きて相を為す。且公用の螺殻をyむる事に因り、本島の人、独り海底に浮ン、波の捲く所と為り、髪を礁に掛けて、将に性命を失はんとす。上原、即ち浮ンて其の髪を}去し、救け起して養生し、以て性命を全うせしむ。頃年に至り、年成好からずして、船隻を造作する能はず。上原、銭三千五百貫文を将て、利息を免じて百姓に発借し、以て修造を為さしむ。上原此くの如く孝行を尽くし、兼ねて又毎事能く弁じ、親族・島人と相交はりて和睦す。褒賞を賜はんことを祈る。百姓・頭目具文し、酋長・在番・地頭印結を加具して、朝廷に報明し、越階して筑登之位を賞す。