[本文1487]【申秋、メに赴くの進貢船、海賊に遇ひて、能く戦防を為し、且回棹の時、哨船を発して護送するを請ひて、国に回る。】申秋、メに赴くの貢船、馬歯山に在りて、封舟両隻と一斉に開洋す。頭号貢船は、中華の外山を@見して、内地に駛せ近づき、夜裡の船行は、不測の虞有るを恐れ、錠を抛ちて暫く泊す。奈んせん風波猛起するに因り、錠索を截断す。羅湖内洋に駕駛するの時、偶々南方より船一隻有りて、貢船に直向して駛せ来る。黷オ是れ賊船ならずや。正に防備を為すの時、賊船、砲を放ちて走り来る。通船人数預め分局の如く、各列立して間断無く砲を放ち、銃鎗を打ち、以て防禦を致す。該賊退去す。未だ幾くならずして貢船、羅湖洋面に駕入するの時、又復南方に賊船一隻有りて、貢船に直取して前み来る。且賊船二隻有り、羅湖前面より出で来る。其の背後、又数十隻の蓬船有り。是れに由りて通船人口、担驚受怕す。該船三隻、転じて貢船の左右を過ぎ、砲を放ち、籏を振ひ、貢船を攻囲して、四五回往来を為す。然れども皆敵を禦ぐを怠らず。故を以て賊船退去す。該数十隻の賊船、亦貢船燒h厳密なるを見て、敢へて前み来らず。方に危難を免るるを得たり。又弐号貢船は、正に中華外山を見るの時、奈んせん風無きに因りて、早く行走せず。漸々風波猛起し、兼ぬるに暗夜にして、内地に駛せ近づくこと能はずして遂にロを抛つ。天明に至るに及び看見するに、乃ち是れ外山台なり。其の洋面内は、暗礁多く、洵に船を泊すべきの処所に非ず。即刻錠を起して駕駛せんとするも、奈んせん風濤猛起して、輙ちロを起すこと能はず。波の為に蕩せられ、漸く石礁に近づく。正に兇険に遇着す。是に于て、舵工・佐事等、皆ロ索を断棄して、羅湖内洋に駕駛せんことを請ふの時、大船一隻走り来るを見る。恐らく是れ賊船ならんと、則ち兵器を挺出し、陣伍を擺列して以て防備を為す。賊船、砲を放ちて前み来るに因りて、貢船も亦手を停めず、砲を放ち銃鎗を打つ。是れに由りて賊船退去す。羅湖前面に駕駛するの時、又船三隻有りて、彼の港口より走り来る。是れに由りて、退去する所の大船も亦回篤して前み来る。四隻の内、一隻の大将船、赤籏を振れば、則ち各両隻を分ち、貢船を夾攻して、以て銅鉋を放つ。正に危急に在り。此の時に当り、勇を振ひて敵を禦がざれば、勢逃るべき無し。是れに由りて、通船人口倶に精力を励まし、輪流して鉋を放ち銃鎗を打ち、以て防禦を致す。彼、貢船の防備の厳なるを見て、遂に退去し、方に危難を見るるを得たり。而して竿塘湾泊の時、又其の火光有るを見、是れ賊船なるを知り、以て燒hを為す。而して賊船来らず。是れ風波猛起し、兼ぬるに暗夜を以てなり。応に天明を待ちて、復来ること有るべし。然れば則ち其の慮無かるべからず等の情、商議す。黎明に至りロを起すに、果して賊船両隻に遇ふ。随即に鉋を放ち銃鎗を打ちて、機を失すること有る靡し。是れに由りて海賊退去す。貢船直ちに五虎門に到らんとし、力を尽くして駕駛するも、奈んせん潮信順ならざるに因り、ロを定海の洋面に拠つ。晩に挨きて海面を見るに、船数十隻有り。仍つて復厳密に戒備し、徹夜看守す。早晨開洋の時、又大船八隻の走り来る有り。甚だ是れ慌忙にして、貢船防ぐ可きの暇無く、ロ繩を截断して駕走す。只彼の船漸く近づきて、鑼鼓を打鳴するを見る。因りて是れ硝船為るを知り、方めて安心するを得たり。而して硝船は、貢船の前後左右より護送して怡山院に到る。又封船両隻及び頭号船は、先だつ一日怡山院に抵る。夫れ斯くの如く賊徒繁多なるに因り、深く帰国の時、仍復遇すること有るを恐る。預め諸衙門に赴き、懇請す、五虎門より以て竿塘に至るまで、硝船を遣発して、貢船を護送せよ等情と。随ひて請ふ所を准すを蒙る。既にして木之下に在りてロを起し、行きて壷江に到りて湾泊す。茲にメ安鎮総爺、把総をして詞を致さしめて云ふを蒙る、特に貢船を護送する事の為に、硝船を輳集して、以て此の辺に来る。当に風を見、開船の時を待ちて、預め詳報を為すべし等語と。遵ひて両隻の員役、倶に総爺の宝船に到り、以て拝謝を致す。時に都司の出でて云ふ有り、海面の賊匪甚だ繁く、兼ねて安南国の賊船百余隻、三頭に分開して、近日厦門辺に到るを聞き得たり。則ち甚だ憂慮を為す。今貢船を管理して、総爺護送する有りと雖も、然れども、司も亦総督・撫院に一斉護送を禀詳す等由と。遵ひて愛恵の恩を将て、感激殊に深しと都司に奉答す。本船に帰るの後、両隻の員役、皆、都司駕する所の船に到りて、以て拝謝を致す。既にして順風有りて開船するの由を将て、総爺及び都司両憲に詳明し、ロを起して揚帆す。是れに由りて、総爺所轄の硝船十七隻、都司所轄の硝船十二隻共に二十九隻、五虎門より以て竿塘の外に至るまで、貢船両隻を護送す。是を以て賊に遇ふの憂無く、以て本国に帰る。