[本文1533]【本年九月初九日、八重山島の桃原を褒賞して座敷位を賜ひ、宮良を賞して白木綿布二端を賜ふ。】八重山島桃里村は、昔は人数千余人有り。但歴届三十六年茲に卯年、海水騰涌して、有る所の地方其の波を被りて沈蘯せられ、翌辰年以来接ぎて飢饉疫癘等の災に逢ひ、年一年を増し百姓疲苦し、今は人数僅かに百七十人有るのみ。稼穡の地に至りても亦空しく荒蕪を致し、各宅籍の圃亦猪の害する所と為り、防ぐべきの術無し。、貧乏なる者は食を四方に乞ひて以て生涯を為す。但上届申年、本島の桃原与人をして其の与人と為らしむ。時に厥の後より、目差宮良筑登之と既に会議を為し農業を引き進む。与人、自己の米六石一斗六升余・牛二口・焼酒九百盞を以て村人に恤給し、田畝を開墾し猪垣を造作して力を農業に竭さしむ。是を以て離散の各人既に本村に帰る。且今唐苧植うる所の処は、土湿りて乾かず、故に茂盛を致さず、連年他村に購買す。但土の宜を察して以て移植を為す。其の後植うる所の数を以て公布を全調す。且下大豆種うる所の地は、風強きの所に係り、毎年播種するも熟せず。但与人自ら白大豆を植ゑて多方に試を為し、遂に成熟を致す。是を以て白大豆五斗を村人に送給し、広く播種を致して以て利益と為さしむ。且本村は毒蛇多く、其の害に逢ふ者も亦多く之れ有り。但該与人等心を留め、諸木萌茂の処は之れを伐り之れを去る。故に其の害無し。上届亥年以来年貢を奉納し、去年より已に欠く所の賦税五十石を納む。此くの如く村落の為に種々心を留めて以て教令を加ふ。故に百姓等衣食裕足して飢寒の憂無し。本村頭目等懇乞す、功を勘して挙庸せよ等の情と。随ひて在番・頭目由を具して報じ来る。随ひて桃原を褒賞して座敷位を賜ひ、宮良を賞して白木綿布二端を賜ふ。