[本文1698]【本年、本部郡前の地頭代瀬底村の健堅親雲上の善行を褒嘉して爵位・掛床の字・布疋を賜ふ。】本部郡前の地頭代瀬底村の健堅親雲上は、善く父母に事ヘ、朝夕孝順の道を尽くす。死後に至るも、亦在すが如きの誠を尽くし、祭礼を挙行す。且村人と交はるに和睦を以てす。貧者に至りては、物件を恵給し、且或いは利息無く或いは利息を減じて以て銅銭を借す。又瀬底二仲の洋面は、洵に風波猛起の処所に係り、諸船湾泊するに、或いは急難有り、或いは打壊有り。該健堅の曾祖父健堅親雲上、自ら資斧を費し、預め索錠等の件を備へ、諸船の危難有るに逢へば、随即之れを発して之れを救ふ。該健堅に至りても、亦其の志を承継し、前の如く准備して、屡々諸船の急難を救ふ。又上届丑年、春運送船返棹の時、礁を衝きて損壊す。該健堅即ち該処に赴き、之れが料理を為す。又瀬底・石嘉波の両村は、水田有ること無く、米穀用を欠く。曾て痲疹庖瘡の時行する有り、屡々米銭を給して以て療治に資す。又上届戌年、饑饉荐りに臻り、饑を救ふに米に乏しく、凡そ貯へて米銭有る者は、宜しく公家に奉借すべし等の因、檄を国中に行ふ。該健堅、銅銭六百貫文を以て公家に奉借す。又瀬底村の生民、憔悴して各々気力を懈り農業に勉めず。該健堅、細さに商議を行ひ、善く指揮を施す。村民、農業に励勤し、獲る所の稼穡前に比して已に多く、益を百姓に貽す。是れに由りて朝廷に詳明す。随ひて座敷位及び善行家風の四字の掛床一張・上布三端を賜ひて以て其の行を表す。