［本文1869］【本年、小禄郡大嶺掟金城等の功を褒嘉して各爵位を賜ふ。】此の年五月、国船一隻有りて、小禄郡大嶺村洋面に駛せ到り、偶々暗礁に擱して殆んど覆没に至る。時に、大嶺掟金城の其の難を眼撃する有り。即刻本村百姓人等を呼集し、更に其の村に有る所の小舟并びに諸方より来会するの小舟を集む。又、本村赤嶺筑登之・上原筑登之の両人有り。原来海水に練熟す。故に該両人を携へて小舟に坐駕し、其の集むる所の小舟数十余隻を率ゐて船の前にぎ赴く。該人等其の小舟の来するを目撃し、即ち三四十間許りより、長繩を浮流して小舟を招進す。故に船に登り、来歴を訪問するに、言語通ぜず。該等其の慌忙を極め、手を用つて勢を比す。已に其の危難を救を請求するの模様有り。該金城意謂へらく、今已に此くの如し。必ずや船身に損処有らんと。即ち赤嶺・上原両人をして深く海中に沈み遍く査看を行はしむるも、猶損壊無し。但々思ふに、該船、若し艫より投錠して以て繋留を致さざれば、以て保全し難しと。即ち手を用つて勢を比し、其の由を告示す。是れを以て人十二名及び赤嶺・上原両人、相共に力を戮せ、其の鉄繩を将て杉板両隻に装載し、海中に投下して本船を繋留し、方めて其の危を免かる。且該処所は風波猛起の場に係る。此の時、該杉板両隻波に覆没せられ、正に万死一生の間に在り。該金城又復心を尽くし力を竭くして、小舟を打撥し以て拯助を致す。但々該人数の内人一名、波に捲去せられて踪影を知らず。該金城、風波少しく静まるに因りて、即ち人に向ひ、手を用つて、我等暫く陸に回り再び来らんとするの意を告暁す。仍りて小舟に坐して上岸し、其の情由を将て逐一管官に報明す。随即小舟を打撥し、通事・各役及び貢船の水梢等を坐駕せしめ、該金城をして之れが引導を為し、船に到して以て料理を為さしむ。即ち人等歓喜し、金城に向対して、手を用つて勢を比し鳴謝す。而して翌朝に至り、船礁を下り以て恙無きを得たり等由、該村に駐箚するの度支・申口等の官、朝廷に報明す。該船頭目、已に金城等の危を救ふの恩を承く。故に総理官に見えて当面して鳴謝せんことを請ふ。且此の時、別に国船隻有りて運天津に湾泊す。其の船の大総兵も、亦総理官に向ひて厚く謝礼を致す。今、金城等、国船隻本国に到来して多く騒擾を致すの間に於て、励精料理して其の危を救済すること、全く本国の人を礼待するの宜に恊ふ。其の功嘉すべし。此れに因りて、金城を賞して筑登之座敷位に陞せ、並びに中布二端を賜ひ、又、赤嶺・上原二名を賞して各黄冠を賜ひて以て其の功を表す。