[本文1952]【本年八月二十三日、八重山島に異国船一隻の漂来する有り。】此の日、異国船一隻有りて八重山島西表郡鹿川村の洋面に漂来す。其の船、長さ二丈六尺・濶さ八尺二寸なり。其の時、在番・胥役等、親しく往きて査看するに、其の異人五名船に在るを見る。即ち其の来歴を訪ふに、言語文字都べて是れ通ぜず、其の手を用つて様を為すに因りて、遂に洋中風に遭ひ船を傷ひて以て駕駛し難く、修船を請求するを覚る。船内に大炮・鉄炮・鎗刀等の器械を載すると雖も、然も兵船の模様に非ず。其の人となりを見るに復左道の徒に非ず。即ち該浜に在りて木屋を起造し、四囲に柵を建てて之れが寓居と為す。復帯ぶる所の軍器を蔵置し、蔬菜・柴薪等の物を発与す。且雑板・鉄釘・石灰等の件を送給するに、自ら修葺を行ふ。又手を用って様を為し小舟一隻を請求す。即ち発給を行ふ。九月初九日昧爽に放洋し、未申方に向ひて去る。