[本文1973]【本年、伊平屋島島尻村の伊礼筑登之親雲上曁び人民五名を褒嘉して皆爵位を賜ふ。】伊平屋島島尻村は、素、両井有り。其の一は泉水涸れ易く、村民は専ら我陽嶽下の井に頼りて聊か汲用を為し、甚だ便利ならず。且其の井一帯の地方に、素、産米十石余の田有り。毎年専ら天沢に頼りて以て苗種を蒔き、一たび旱魃に逢へば、百姓汲水入田の労有りて、隙を費すこと少からず。或いは蒔種、時を失する有りて禾穀登らず、貢賦を欠す。況んや其の近辺、多く毒蛇有りて水を汲むの人等屡々其の害に遭ひて性命を殞すをや。挙村人等、村下の海涯に泉の湧出すること有るを見て、意謂へらく、若し此処に在りて泉井を掘開すれば、決して欠水の憂無しと。然れども村疲れ民苦しみて、其の費を調備する能はず。時に其の村の伊礼筑登之親雲上曁び人民五名有り。各銅銭一千貫文を発し、百姓の農隙を視察し、着令して海涯より其の泉を導き、村辺に于て水井を鑿開せしむ。其の高さ一丈五勺・横六尺。時に厥の後より、唯に用水の饒足するのみならず、且其の水を田中に汲み入れて、以て耕種の便を得、更に百姓の隙を費さず。其れ益と為ること少からず。是れに由りて朝廷、皆爵位を賜ひて以て褒典を示す。