[本文2230]【本年、蔡氏伊計親雲上大鼎の孝行を賞して物件を頒賜す。】蔡氏大鼎は、親に事へて至孝、常に省定の礼を尽くして毫も怠慢無し。経に出でて他処に在ると雖も入りて其の安否を伺ふ。諸凡の事情に至りても心を尽くして孝敬せざるは莫し。況んや慈母の病に染むの時に当るをや。心を加へて調治するを除くの外、東禅寺に往き仏前にて灯を掌上に燃やし、祈るに痊を以てし、両手爛に就く。奈んせん病勢沈重にして其の効を見ず、遂に身故に及ぶ。大鼎、悲嘆の至に勝へず。然れども厳父在世するに因り、強ひて嘆心を止め、常に父の情を慰む。其の後役に充てられメに赴くの時、再三父に勧めて配を選び妾を娶らせ身体を保養せしむ。且其の年老い身衰ふるを見て愁悶勝へ難く、屡々其の友を邀へて父と談論して以て心情を慰む。且其の中風を患ふに因り、医薬を奉待して以て調治を行ひ、四面に跟遊して保養を為すも、病勢漸く重く、遂にy床に臥す。此の時に当りては、昼夜愈々心力を尽くす。既に医治を行ひ、復、神祗に祈り、十余日を歴るも、其の効を見ず、不幸にも世を辞す。曷んぞ哭慟に勝へんや。其の送終の人等に至りても、感嘆せざるはなし。既にして祭祀に逢ふ毎に、亦在すが如きの誠を尽くす。但に此れのみならず、内は兄弟より外は親族に至るまで、交はるに和睦を以てす等の由、朝廷に禀明す。是れに由りて大鼎の孝行を褒嘉して掛床一幅・綿子一把を頒賜し、以て恩典を示す。