[本文2232]【本年、泊村の亡山田筑登之親雲上の女真牛の孝節を賞して銭文を頒賜す。】泊村の亡山田筑登之親雲上の女真牛は、家道貧乏にして度日艱難す。十歳に至るに及び、厳父に背かれ、慈母も亦嫁し、孑々として独苦す。幸に本宗の叔母の養に頼りて以て性命を全うし、深く其の恩に感じて厚く供養を行ふ。年紀漸く長じ、殆んど出嫁の時に及ぶ。奈んせん該叔母、既に眼病に染み、また結毒に輿して、久しく病床に臥し、人の供養する無し。因りて一生孀居して以て烏私を遂げんとし、乃ち媒妁の語を聴くを肯んぜず。常に豆腐を営みて銭文を賺得し、精を励まして孝養す。其の治病の一案に至りても、医を延きて服薬するを除くの外、百般心を尽くして調養す。時に饑荒に逢ひて養資を欠き、暫時身を托して奴と為る。資を獲て供養するを除くの外、常に奴職を帯びて厚く孝情を尽くす。又該叔母、神老い身衰へて坐立・歩行甚だ堪へ難きに属するに因り、屎尿の時に逢ふ毎に、該叔母を将て背上に負帯し、以て挙行を致すこと、実に赤子を保つが如きの意有り。故を以て身老い病多しと雖も、然も精神康健なり。已に八十有二に至りて死す。茲に其の病に染みて臥床するの久しきを算するに、已に三十有年に及ぶ。惟々是れ該牛、昼夜心を尽くして厚く孝養を行ふ。已に遯世の後に於ても、善く釈奠を行ひ、以て在すが如きの誠を尽くす。既にして本宗の従弟を択び取りて、以て祭祀を至らしむ。即ち云ふ、在世の間仍釈奠を行はん等語と。現今八九尺許りの茅屋に居住し、豆腐を営み成す。特に節序祭祀を挙行するのみならず、而も忌辰に至るも、物件を携帯して神霊に奏薦し、以て追慕の情を尽くす等の由、朝廷に詳明す。即ち其の孝節を嘉して銭九千六百貫文を頒賜して以て褒典を示す。