[本文2280]【本年、八重山島属内与那国島の洋面に夷船一隻の漂来する有り。】此の年、夷船一隻有りて、八重山島属内与那国島の洋面に漂到し、礁を衝きて損壊す。胥役等、其の危を目撃して、該浜に飛び赴く。夷人一名・華人一名、杉板に坐駕して上岸す。即ち該余人等、波急にして風猛なるに因り、上岸する能はざるを将て、彼の原船より繩を近岩に懸け、其れをして上岸せしむるを乞ふ等由、手を以て様を為す。随即之れが為に籌画し、数を尽くして上岸せしむ。奈んせん波の為に捲かれ潮水を呑むもの多く、将に絶命に及ばんとする者多く之れ有り。作速、体を゚め潮を吐かせ、湯を飲ませ粥を給して、以て其の命を治す。既にして通詞役を遣はし、来歴を訪問せしむ。即ち云ふ、某等は実に堪北国の商船に係る。通船人数共計十五名、内、華人一名有り。広東香港に於て開洋し山東に赴かんとし、゚想も、船洋中に到りて大風に遇ひ、貴島に漂到して礁を衝き撃砕す等語と。随ひて該浜に在りて木屋を起造し安頓撫養す。既にして貨物を撈救する事の為に、本島人民、難人に随同して破船の拠所に前み赴く。鉄製空壷大小三箇・衣包四個・白木箱大小七個・布帆一巻並びに工器等の類を撈得して、難人に交給す。続いで難人の禀称する有り、某等頻りに台湾に前み赴かんと欲す。乞ふ、船隻を給発するを准せ等の由。随即告暁して曰く、本島は船隻有ること無し。貢賦を解運するに逢ふ毎に、専ら内地の船楫をレふ。汝等請ふ所の事情は内地の憲裁を奉候して以て籌画を為さん。宜しく其の憲覆を待つべくして可なり等の由と。又禀称する有り、此くの如く施行すれば、則ち日を曠うして待つこと久しく、多く不便有り。請ふ、小船一隻を給せよ等の由と。此れに因りて推辞するに便ならず、乃ち該破船の残材を将て木板を加添し、小船一隻を造給す。長さ三丈五尺・横一丈計りなり。回国の日、柴・米・塩・菜・用水等の物を発給す。該難人等、深く其の恩を謝し、放洋して去る。